F-1の思ひ出 ~その5 ジル・ビルニューブ

 シューマッハの独壇場となる以前、シェクター/ビルニューブ時代以降のフェラーリはからっきし弱かったものだが、水平対抗12気筒をつんでいた頃までのフェラーリはそれはそれは強いチーム、といった印象だった。

 その強いチームの象徴のような存在だったのがジル・ビルニューブだった。


 死後、いろんなメディアでその活躍ぶりが紹介されて いるので詳しくは触れないが、アランドロンを彷彿させる端正な顔立ちとは裏腹にマシンが動く限りは絶対にあきらめない、凄くファイタータイプのレーサーだった。

 「赤いペガサス」の劇中、ポールフレールが主人公のアカバ・ケンに言うセリフ「君は死神に取り付かれているタイプのレーサーだ」といったくだりを読んだその当時直感的に「あ。これはジルのことだな」と思ったものだった。


 ロニーピーターソンと同じようにガッツあふれる走りなのだがどこか死のにおい、というものが彼の回りからは漂っていた。

 そんなわけでゾンダーで彼が他界した時も「来るべきものが来たな」といった印象しかなく、その当時は特別な感慨も持つことはなかった。

 しかし、時が経ち、F-1がNA3.5リッター制限になり一時期まじめに見てなかったF-1を見だして、フェラーリのマンセルの走る姿を見て「彼」のイメージとダブらせて見ていたのは私だけでは無いだろう。

 その時初めて偉大なドライバーを失ったのだなあ、としみじみ思ったものだ。